本研究は、日本における食料・栄養のセキュリティ（安全保障）を確保するため、食料供給の流れを可視化し、持続可能な食料システムの構築に貢献することを目的としている。食料・栄養セキュリティとは、すべての人々に対して、安全で手頃な価格で、栄養価の高い生鮮食品および加工食品が安定的に供給されることを意味する。日本では、2030年までに2000年比で食品ロス・廃棄を半減するという国家目標が掲げられており、これを達成するために様々な施策が実施されてきた。これには、農場や食品製造過程で発生する副産物や規格外品など、本来であれば消費可能な食品の廃棄を減らし、それらを再び食品供給の流れに戻す、あるいは他の食品資源として活用する取り組みが含まれる。
具体的な例として、食品バンクを通じて未利用食品を生活困窮者などに提供する制度や、アップサイクル食品（食品ロスの再加工品）を新たな食品資源として活用する可能性が検討されている。例えば、プリントカートリッジの形状に加工したアップサイクル食品など、創造的な技術を用いた食品ロス活用策も模索されている。こうした背景のもと、本研究では、日本における食料と栄養の流れをマクロに把握するため、マテリアルフロー分析（Material Flow Analysis：MFA）を導入した。これにより、食品の生産・消費・廃棄・再利用に関する物質的な流れを定量的に可視化し、現状の食品供給システムにおける課題と改善点を明らかにした。
さらに、分析の一環として、食品ロスを再利用することで、国内の栄養不足をどの程度補完できるかについても試算を行った。その結果、特定の栄養素（例：タンパク質、ビタミン類）に関しては、適切にリユースされた食品ロスが有効な供給源となり得ることが示唆された。また、栄養の視点から見た場合でも、食品ロスの再資源化は食料・栄養セキュリティの強化に寄与する可能性が高い。
本研究は、食品ロスの削減と資源循環の促進を同時に達成し、かつ栄養面の課題にも対応できるような、循環型かつ持続可能な食料供給チェーンの設計に向けた新たな知見を提供するものである。今後は、MFAに基づく栄養重視型の政策立案や、地域特性に応じたリユース戦略の構築が求められる。こうした視点を取り入れることで、日本における食料・栄養セキュリティの実現に向けた実践的な方策が導き出されることが期待される。
Food and nutrition security relies on the safe, affordable, and nutritious supply of fresh and processed foods to all individuals. Japan has set a national target to halve food loss and waste by 2030 compared to the year 2000. Various initiatives have been implemented to reduce the disposal of potentially edible food and make the food sector more resource efficient. These efforts include reintroducing potential food loss and waste from farms and production side-streams back into the food chain or repurposing them for other food sources. For instance, the utilization of food banks and the consideration of using upcycled foods print cartridges to utilize food loss and waste are being explored. To address these challenges and ensure the sustainability of the food supply chain, it is important to understand the flow of food and nutrition in Japan. Therefore, this study utilized material flow analysis to illustrate this flow and calculated the reuse rate of food loss required to compensate for nutritional deficiencies in Japan. By providing new insights into designing a sustainable food supply chain, this research contributes to the advancement of food and nutrition security and offers valuable suggestions.
雑誌名
EcoDesign for Circular Value Creation: Volume II
発表タイトル
Food and Nutrition Security Toward Sustainable Food Chain in Japan
著者名
Ryota Mori, Yuna Seo
DOI
引用
Mori, R., Seo, Y. (2025). Food and Nutrition Security Toward Sustainable Food Chain in Japan. In: Fukushige, S., Nonaka, T., Kobayashi, H., Tokoro, C., Yamasue, E. (eds) EcoDesign for Circular Value Creation: Volume II. Springer, Singapore. https://doi.org/10.1007/978-981-97-9076-0_8
