地域中小企業のCSVアライアンス構築には「近接性」が欠かせない

企業はこれまで,環境・社会問題への対応としてCSR(Corporate Social Responsibility)活動を展開してきた. 一方で,受動的な対応ではなく,経営戦略や事業戦略にCSRを組み込んでいこうという積極的動きも出てきている.最も顕著な例としてPorterらのCSV(Creating Shared Value)が挙げられる.本研究ではCSVのアプローチの中の一つである地域社会にクラスターを形成し発展させることに特に着目している.クラスターにおいては「近接性」を取り扱う研究は数多くあるがCSVの側面から実証的に分析している研究は乏しい.そのため, 本研究では地域産業クラスターに所属する中小企業間において CSV活動を促すために,組織間の「近接性」とその影響を考慮したモデルを構造方程式モデリング(SEM)を用いて提案することを目的としている.

 本研究では11 種類の産業クラスターに所属する企業群を調査対象として86件の対象から5段階のリッカート尺度を用いたアンケートを回収し,これを構造方程式モデリングを用いて分析した.

その結果, 「地理的近接性」「制度的近接性」「企業間目標共有」「地域クラスターダイナミクス」「経済的価値」「社会的価値」の6つの因子が得られ, 地域産業クラスターにおける近接性を考慮したCSV促進モデルが得られた.また,得られたモデルから地理的・制度的近接性が企業間目標共有に影響を与え,さらに企業間目標共有は地域クラスターダイナミクスに影響を及ぼすことが示唆され,地域クラスターダイナミクスは経済的・社会的価値にそれぞれ影響を及ぼすことが明らかになった.

 以上の分析結果から,地域産業クラスターに属する中小企業がCSV活動を行うことに対して以下の提言を行う. まず,地域産業クラスターに所属する企業においては制度的に類似した企業又は地理的に近接した企業に対して,CSV活動を促進するために各組織間で共通の社会的意義及び経済的条件を定めたうえで共有を十分に行う必要がある. そして,掲げた目標に対して組織間の都合や利益を常に調整しながら活動を推し進めることで,経済的価値のみならず社会的価値の創出にもつながると考えられる.

学会

第60回日本地域学会年次大会

発表タイトル

地域産業クラスターにおける近接性を考慮したCSV促進モデルの提案

著者名

白沢 直人・徐 維那

DOI

proceedings2023.pdf (jsrsai.jp)

引用

白沢直人、徐維那(2023)地域産業クラスターにおける近接性を考慮したCSV促進モデルの提案、第60回日本地域学会年次大会発表論文集

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